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日が沈んだとはいえ、街の中心部に近い通りはまだ賑わっている。さほど遅くまで開いているわけではないが、この時間は食べ物や酒を取り扱うところは客も途切れてはいないようだった。
「軽く買っていくか?」
「…そうだね、少し部屋でも飲みたいし」
赤ワインとチーズ、それにクラッカーを選んだのは雲雀だった。日本酒以外はあまり飲みたがらない奴が、この辺りのワインを気に入ったというのだろうか。
「あ、おい」
ふと目を離した隙に雲雀は先へと歩いている。それどころか、軒先のランプを今にも消そうとしている横をすり抜けて店へと入っていきやがった。
仕事を終えて飲みに繰り出そうとしていただろう店主に愛想笑いをして雲雀の後を追ってドアをくぐれば、見渡せるほど狭い店内にその姿はすぐに見つけられた。
「ヒバリ、てめぇな…」
何してやがる、と問いかける前に気付いたけれど、壁や天井に飾られているのは金属製の小物や装飾品ばかりで、その上雲雀の手元にあるのは銀のアクセサリーが幾つか並べられたケースだ。
「おい」
覗き込んだら問答無用で手を引かれた。何かと思えば左の親指に指輪が通される。つまりこれは、雲雀の買い物だということか。
「これ、もらうよ」
慌てて店内に戻ってきた店主らしき男に、雲雀はカードを突きつける。使えないと言われたらどうするつもりだったんだろうかと考えればおかしくもなるが、店主が客とわかればそれでよしとばかりに笑うものだから俺は肩をすくめるしかなかった。
「ヒバリ」
用は済んだとばかりにさっさと店を出る雲雀を追って、右手を掴んで隣に立つ。ありがとな、と言えば返事があるわけでもなく、けれど機嫌は悪くなさそうだからそのままに与えられたばかりの指輪をした指を絡める。少しぐらい目立っても仕方ないだろう。ただ隣だって歩く友人の顔を装えない程度には、俺も浮かれているんだから。
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