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少し足を伸ばして観光していくかと提案すれば、断りもせず雲雀から手を引いて歩き始めるくらいだ。いつものように自分のペースでこいつが動くのはわかるが、どうにもおかしい。
「教会?」
「聖堂な、ドゥオモってんだよ。日本じゃこういうのは見れねぇだろ」
人の流れに沿って辿り着いた広場の正面に、精緻な装飾が施された大きな建物がある。あまり雲雀はこういうものに興味はないだろうと思っていたが、折角の機会だ。
「ふぅん」
雲雀がちらりと見上げる様子に、自分ももう一度建物を眺める。丁度いい感じに陽が当たって黄金色に輝く時間帯ということで、周りの観光客も同じように荘厳な雰囲気を堪能しているようだった。ただ一人、雲雀だけはふいと目をやるだけで終わらせてしまう。
「なんだよ」
こちらを見るということは何かしら言いたいことでもあるのかと目を合わせるが、そういうわけでもないらしく雲雀は口を開かずにいる。
「折角だし、中も見てくか?」
誘いを掛けても気のない返事で、一応はいいよと言うのだから構わないのだろう。美しく整えられた庭やゴシック様式の内装などに関心を引かれもしないような雲雀は、それでもゆっくりと隣を歩いている。
「欠伸すんな、ほら」
あまりに退屈だったのか猫のような欠伸をしそうになる雲雀の頬をつつく。れっきとした教会だ、あまりに失礼な見学者だと思われるわけにもいかないだろう。
「ん」
無意識だったのか口をつぐんだ雲雀は、逆におかしそうに唇の端を上げてこちらを見た。
「…なんだよ、さっきから人の顔ばっかり見て。変なもんでもついてんのか?」
気にはしてみるが別に雲雀以外は特にじろじろ見てくるわけでもない。皆観光に夢中なのだろうし、俺だってイタリアではそんなに目立つってほどでもないはずだ。むしろ、雲雀の方が目を引くほどじゃないか。
「さあね」
何かあったとしても、俺じゃなく雲雀の方か?
まあいい、どうせ気まぐれな奴のことだから放っておけば別のことに興味が向くだろう。それがいつものパターンだ。下手につつけば藪から蛇が出かねない、そう長い付き合いの中で学習したんだ。後ろについてくる気配を感じながら歩き出すけれど、精緻な装飾や並び立つ柱などろくに視界に入ってこなかった。
「ああ、そうだ」
ふと伝え忘れていたことを思い出して振り返れば、雲雀とかちりと目が合った。こういうところで何故か気恥ずかしくなるが今更だろうか。しかし、他人のいるような場所でこうして一緒にいることもそうないから意識してしまうのも仕方がない。そう内心言い聞かせながら、何事もない風を装って視線を外す。
「なに」
一歩近付いたのだろう、声が近い。
「今日はこっちにホテルを取ってある。またあのバスに乗って帰るのに日帰りはちょっとキツイだろ」
ふうん、と息を抜いただけの返事を一応了承と取って、そのあとは特に話すこともないまま歩いているうちに見学コースは抜けていた。
空は夕闇に傾いてきていた。
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