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その後も雲雀の機嫌は悪くなかった。乗り心地の悪いバスも気にはしないし、昼食も適当な店で済ませ、こうして目についたジェラートを買ってみたりしている。
「変な味」
「どれ…って、これピスタチオじゃねぇか。普通のが食いたいならちゃんとそういうの選べよ」
それでも雲雀は淡い緑色のジェラートを舐め取っている。俺はといえばその様子を眺めながら、むずむずと落ち着かない気分に襲われていた。
「なに変な顔してるの」
「…誰のせいだと思ってやがる」
赤い舌がちらちらと覗くのがやらしいとか言えるわけもなくて、ジェラートでも食べるかと道端で提案したのは失敗だったと考えているのに。雲雀は俺がどう見てようが気にせず時折唇を舐めたりなんかしていて、どうしようもない。
「食べたいなら、そう言えばいいのに」
「は」
その視線に気付いたときには、ちゅ、と唇が触れて離れていた。
「な…っ!」
慌てて周囲を見渡せば、店員が見なかった振りをしたり、ちらほらいる通行人はからかうように口笛を吹いたりして、明らかに見られてしまっている。雲雀の突飛な行動は今に始まったことじゃないがそれにしたってこんな人のいるような場所でどうこうとかいつもならありえないだろう。
「てめぇ、な」
「誰も見てないよ」
嘘だ、と言う前に手を握られた。それだけでどくんと心臓が跳ねるなんてガキじゃあるまいに、俺もどうかしている。
「……場所を考えろ」
手を引けば雲雀はそのままついてくる。人目を避けるように路地裏に連れ込めば、残ったコーンを押し付けられた。当の雲雀は機嫌良さそうに目を細めて、握った手を組み直して指を絡めてきたりとかしてきている。
「なんなんだよ、まったく」
コーンを平らげてやるとまた唇が触れてきて、日の当たらない場所でもその瞳が悪戯がちに光るのがわかった。こいつもイタリアの陽気にあてられたんだろうか、と思いながらこちらも満更ではないのがまた始末に終えない。軽く唇を食んで背中を撫でれば小さく笑うような吐息が触れた。
「君はこちらの水の方が合うのかな」
何の話だ、と問う前に唇は塞がれる。雲雀の意図は読めないけれど、このところの言動は俺に起因しているのだろうか。そう推測は立つけれど確かめる手段は、ありそうもない。
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