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きっかけは多分些細なことだった。それがこうして未だに続く腐れ縁のような関係になったのは、それぞれ立場は同じなのに所属する場所は違う距離感のせいだろうか。
思えば昔から自分のプライベートスペースに人が入り込むのは嫌がる奴だったし、俺もその気持ちは理解できる。ただ、誰かを招いたこともない自室に不意に雲雀が訪れることがあって、いつしか俺もそれが当然なのだと感じるようになっていた。
こうして肩を寄せ合うなど、初めて会った頃には考えられなかった。
「酷い運転」
「喋るな、舌噛むぞ」
海沿いの観光にバスを選んだのは失敗だったかもしれない。うねる道、軋む車体、落ちないのが不思議なぐらいの崖っぷち。幸い二人とも乗り物酔いする方ではないけれど、こう振り回されてはさすがに参った。
「君の方がまし、かもね」
ちらりと視線を送ってくる雲雀を見て何かを言おうとしたところで、車体がガタンと跳ねた。
「ってぇ…」
舌を噛むには至らなかったものの、バスが揺れた拍子にがちりと顎を閉じた振動がまだ残ってるようだ。雲雀はほらみろとでも言いたげに笑うだけで、まぁ機嫌は悪くないようだからいいんだけれど。
「ここ、エレベータで降りるんだってよ」
ふぅん、と応える雲雀は興味なさげにちらりと視線を送るだけだった。ただ拒否しないということは許可していることだと解釈することにしてるから、構わず先に立って歩く。
「どうせ子供騙しでしょ」
「そう言うなよ。遊園地のアトラクションとでも思えばいいだろ?」
例えてみたものの雲雀が好きそうなわけでもなくて苦笑は隠しきれなかった。実際俺もそんなに期待している訳じゃなく、雲雀を連れ歩く口実にしただけだからだ。
入口の整備された洞窟は海水で満たされていて、ボートに乗り込めば船頭が勝手に説明をしながら奥へと進んでいく。
ここだ、と示される前にもう水の底が光るのに気付いた。海と繋がる洞窟の奥の穴から光が差し込んで、見たことのないような輝き方をしている。
「へぇ…」
有名な青の洞窟と同じだということは知っていたけれど、間近で見れば確かに見応えがある。船頭がオールで水面を叩く度にきらきらと光が揺れる様が面白い。
ふと、雲雀は楽しんでいるかと振り返って思わず息を止めた。ゆらりと反射した光を映して、それでも闇夜のように深い色の瞳がひたりとこちらを見据えている。
「綺麗だね」
水面に視線を外した雲雀がそう呟いたのに、俺は頷くことしかできなかった。
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