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日本にいると、休日といえど休むより何かをしなければならない気になるが、イタリアで時間を取れたのは良かったのだろうか。自分も雲雀もこうして自然にゆっくりと過ごすことができる。
「ほらよ」
レストランを後にして戻ったホテルで、コーヒーをと言うから淹れてやれば当の本人は待ちくたびれたかソファで船を漕ぎ始めていた。さっきまであれだけ寝てたのにまだ眠れるのか、と苦笑が浮かぶけれど冷める前にとローテーブルに二人分のカップを置いて起こしてやる。
「ヒバリ」
悪戯のように目蓋にキスをすれば、数秒置いてからぱちりと目を開ける。寝ていた自覚はなかったのだろう。なに、と問いたげな唇に口付けてやると不満げに軽く噛まれた。
「コーヒー、冷める前にな」
そうは言うけれど、濃いめに淹れたコーヒーにあえて冷たいままのミルクを加えてある。決して認めはしないが猫舌らしい雲雀がすぐに飲めるようにという配慮だ。
「ん」
カップを受け取った雲雀が両手で包むように温度を確かめてから口をつけるのは見慣れた光景だった。ただ、そういうときはカップを持ったままうとうとしはじめたりするから注意しておいてやらないといけない。いつもは鋭い目がとろりと眠気に温んでいる様を見ているのは割と嫌いじゃないからいいけれど。
すんすんと匂いを嗅いだ雲雀がちらりとこちらを見る。さすがに出先ではいつものような味というわけにもいかないから、そのあたりはわかっているだろう。
「ん?」
首を傾げてみせてもそれ以上は何か言ってくるわけでもなかった。代わりに、雲雀はカップを傾けてちびちびと飲み始めている。どうやらお気に召したようだとわかるのは、すぐにもういいとこちらに押し付けてこないからだ。土産に買って帰るリストに脳裏で書き付けて、飲み終わるまでと邪魔にならないように肩を寄せた。
天井に視線を投げ、明日はどうしようかと思考を巡らせる。鉄道で北に観光に行くのもいいし、海沿いで過ごしてもいい。こうして一日ホテルでゆっくりするのも構わないけれど、どうせならいろいろ雲雀に見せておきたかった。本人は興味ないと言うだろうし、実際観光などをするより寝ていたほうが有意義だと考えるだろうが、例えば昨日のような新しい何かに触れる雲雀を、俺が見たいだけなんだろう。
隣で雲雀がふぅと息をつくから左手を差し出せば、中身の残るカップを託される。ぱちりぱちりと瞬きする様子からすると、目は覚めたのだろう。残ったコーヒーを飲んでカップを置いたら、空いた手に指が絡む。どうやら今度は眠気の代わりにこちらと戯れるつもりらしい。
「こっちの空気も悪くはないね」
雲雀がぽつりと言ったのも意味のない戯れだと流して、唇の感触の心地よさに思考を投げ出した。
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