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訪れた店はほぼ満席で、けれど小洒落た雰囲気のお陰かそれほど騒がしくもない。予約した席は少し奥まっていて落ち着けそうだった。
「何か食べたいものはあるか?」
渡されたメニューは観光客向けに他国語が書き添えられているものではなく、イタリア語で料理名が箇条書きされているだけのものだった。その辺のイタリア人が友人を連れてきたように見えたのだろう。
「まかせるよ」
雲雀がちらりとも読もうとしないのはわかっている。ウェイターを呼んで、席に案内されるまでに見かけた料理いくつかとワインを注文すれば、ほどなくしてワインとグラスと摘まむものが少しテーブルに運ばれてくる。
「よく飲むね」
「てめぇも飲むだろ?」
地元産というワインはそれこそここで味わうのが一番だと思う。雲雀にそれが通じるかはともかく、目の前のグラスに注いでやれば不満もなく手に取る様子が見られる。休暇とはいえ少し飲みすぎていることは自覚していたけれど、羽目を外すほどでもないし前後不覚になるわけでもない。ただ雲雀がこうして付き合ってくれているのが嬉しいのだ。
「何にやにやしてるの」
「して、ねぇよ」
表情に出ていただろうか。口にチーズの欠片を押し込まれた。その指を雲雀が自分の口元に持っていってちろりと舐める様を見て、欲がざわつく気配を感じる。仕事で離れていた間の分を穴埋めするぐらい十分に抱いているはずなのに、雲雀に付き合わされているうちにおかしくなったんだろうか。けれど、まあ仕方ない。普通人とは出来やら性能やらが違いすぎるこいつのせいだ。どうせ昼に寝ていたから体力は余ってるだろう。とにかく潰れないようにと酒量には気を付けることにした。
やがて運ばれてきた料理に雲雀が手をつけないから、今日はとにかくなにもする気ないんだな、と笑ってやる。
「うるさい」
否定はせずに言うから、貝を殻からはずしてやって差し出せば素直に食べる。味は問題なさそうだ。やたらに大きな海老を剥いて身を切ったり、そうしてやっていると一緒に食事をしているというかまるで給仕だ。
「うまいか?」
「悪くはないね」
南イタリアの海の幸は以外とお気に召したようで、雲雀があれこれと食べている合間に自分もつまんでいたら、結構食べていた。日本に帰っても似たようなやつを作ってやれるだろうか、と軽く脳内にメニューをメモして、瓶を空にするまでワインを味わった。
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