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財団長の長い休暇7

 雲雀が起き出したのは結局陽が沈み始めた頃だった。何度か抜け出しても怒られもしなかったし、特にこれといってすることもないしと枕役を務めることにしていたけれど、流石に少し疲れた。
「夕飯はどっかに食いに行くか?」
「……いいけど」
 お腹空いてない、と言う雲雀を起こして水を飲ませたら喉は乾いていたのだろう。半分ほど入っていたボトルは空になった。ふわふわと欠伸をする雲雀に釣られないよう噛み締めて、服を用意してやる。
「シャワー浴びてこい。くしゃくしゃだぞ」
 昔より短めの髪は気まぐれにひねくれて、まさに鳥の巣のようになっている。撫で付けてやってもおとなしくはならないから、ぐずる前にシャワーに放り込んだ。
 夕飯は近くの店でいいだろう。ホテルに訊いた評判のいい店と、検索で調べた店を幾つか携帯端末の地図に登録する。水音が聴こえてくるということはバスタブで寝ていることもないだろう、と様子を見ながらシャツと下着を置いてやって、待つ間に自分も身支度を整えた。
 扉が開く音に視線を向ければ、案の定濡れ髪のままの雲雀が出てくる。ソファに座って手招きをすると、傍らのドライヤーに目を止めて眉を寄せながら、床に座って一応頭を預けてくる。タオルで押さえて十分に水分を吸わせたら、ドライヤーを手にとる。こういうのを嫌う様が猫に似ているなといつも思うけれど口には出していない。
「熱いからな、動くなよ」
 手に風を当てて温度を確かめてから雲雀へ向ける。まだしっとりと重い髪を払いながら、慎重に、丁寧に。
 雲雀は、ドライヤーは確かに嫌うし面倒がって自分では使わないけれど、こうして髪に触れられるのは意外と苦手ではないようだった。地肌から梳くようになでるととろんと目を閉じて、それがやっぱり猫のようだなと俺は思うわけで。こちらも触れるのは心地良いから都合は悪くないし、なんのかんので利害が一致した関係と言えるだろうか。
「よし、いいぞ」
「ん」
 昔と比べると、随分穏やかになったものだと思う。学生の頃はいつもピリピリと神経を尖らせて見えざる敵と戦っているようだったし、校則違反者を取り締まるという名目でしょっちゅう暴れていた。今は嫌いな人間との距離の取り方も暴力以外のストレスの発散の仕方も覚えて、いざ戦闘になると昔以上に生き生きとする代わりに平時の沸点も大分下がった。
 こうして休暇を取るのもいい傾向だと思う。放っておいたら飲まず食わずで部下もつけずあちこち飛び回っているものだから、心配などしていたらこちらの胃がもたない。服を脱がせたついでに腕を回して、痩せすぎていないか、怪我などしていないか確かめるのも習慣になっている。
「ほら、行くぞ」
 自分が立ち上がるついでに雲雀も立たせて服装を整えてやる。目が合うついでにキスをするのも習慣というか、もう習性のようなものだろうか。

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