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財団長の長い休暇5

 いくら寝たのが遅いとはいえ良く眠れるものだと感心する。自分なら長くて七時間半、仕事とあれば睡眠など気にせず生活できる。雲雀は起きている間に常人ならざる力を発揮する分睡眠が必要なのだろうか、と昔に推測したことはあるが、今ではもうそういう生き物だと思って接していた。
 耳を澄ませれば規則的な寝息が聞こえる。きっと夢も見ずに眠っているのだろう。雲雀がどんな夢を見るかなんて聞いたことも考えたこともないが、巨大になった飼い鳥を夢見ているのかもしれないと思えば可愛い寝顔に思えてくる。
 いや、年上の成人男性に可愛いも何もないか。元々可愛くないの塊のような男だからギャップに惑わされるだけだ。苦いコーヒーの香りを嗅げば寝ぼけた頭も目覚めるだろう。
 猫飼いの試練というものがある。実際に飼い猫に何回も体験させられているから身に染みているが、この大きな猫の場合は何せ体がでかい分大変だ。そう、一度膝に乗せたら猫の気が向くまで動けない。雲雀は飼い猫と言うよりは気ままな野良だが、飼い猫よりも自分のスペースの主張は激しい気がする。そんなわけで太股に乗った頭の重みを感じながら邪魔にならないよう本を開き、長期戦に耐える心づもりで過ごすことにした。
 時折ふにふにと顔を擦り付けるようにするのが本当に猫のようだと思いながら、肩が出ないように上掛けを引き寄せてやる。何も身に付けず寝床に入っているのだから、油断すればすぐに肌を出して風邪でも引きかねない。幸い雲雀は寝相が悪い方ではないけれど、昔から熱を出したりしやすくはあったからつい心配しがちになるのは仕方がないだろうか。
 頭を撫でていると、本当に猫を寝かしつけているような気分になってくる。手の平に触れる髪の柔らかさと温もりに安心するような、そんな感じだ。雲雀も嫌がらずに寝ているから手を添えたままにして、片手で文庫を開いた。時間潰しのためのつもりで内容は特に頭に入れず、つらつらと文字ばかりをなぞる。音を立てないようにページを捲って、また本に視線を落とした。
 ふと、携帯のランプが光るのに気付いて雲雀の髪から離れて手に取った。着信音も振動も切っていたけれどもしものことを考えて電源は落とせずにいる。
 メールに添付されていたのは飼い猫とボスのペットが寄り添い寝ているところだった。一人暮らしのマンションに猫だけを置いていくのは心配だし、やんちゃだからペットホテルに預けるよりは、とボスの家に預けることはしばしばあった。その度にボスの家でも我が物顔で振る舞う飼い猫の話を聞いて肝を冷やすのだけれど、なんだかんだいって同じ猫科同士寝るときくらいは仲良くできるらしい。
 添えられた文章は簡潔なものだったけれど、こちらで心配しないよう仕事のことはなにひとつ書いていない。もう少し上手に人に頼るようになってほしい、と人の良いボスの顔を思い浮かべる。
「ん…」
 小さく雲雀が身じろいだ。携帯をサイドテーブルに音を立てないように置いて、よしよしと撫でてやるとまた大人しく眠りについたようで、すうすうと寝息が聞こえる。

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