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財団長の長い休暇 そのあと

「状況完了しました。……はい、予定通り弾薬庫は押さえてあります。流通ルートは……了解。以上です」
 通話を切り、端末を仕舞う代わりに煙草に指を掛けて、やめた。雲雀が盛大に暴れたせいでそこらに火薬が散っている。その当人は、スーツをはたいて物言いたげな視線を投げ掛けてきていた。その瞳はまだ戦闘の余韻でぎらぎらとしているから、あまり直視はできない。こちらもまだ落ち着いていると言うには程遠い状態なんだ。
 本部からの増援は戦力としては当てにしなかったが、後始末をさせるには丁度良い。制圧した箇所の見張りを指示しながら報告を受けて、また人数を割り当てていく。そう、幹部としてはいくらでも仕事はあるし、さっさとホテルへ引っ込むわけにはいかない。けれどもぴりぴりとした空気を当てられていては気が散るどころじゃない。
「ヒバリ、てめぇは先にホテルに戻って風呂でも入れ。そんな格好でふらふらされてちゃみっともねぇから」
 実際返り血を多少なりとも浴びたり、飛び散った何かの破片でスーツも痛んでいる。いくらボンゴレ最先端の技術で作られた生地でも、雲雀の戦い方には軽く負ける。口実ではあるが、とにかく距離を稼いでおきたい今は素直に従ってくれるよう祈るしかない。
「そうだね。眠いし、そうしてあげてもいいけど」
 しかし、安堵にほっと息を弛めようとした隙を雲雀が見逃すわけはなかった。無造作に歩み寄ってきたかと思えば胸ポケットから煙草の箱とライターを抜き取って、こちらが何か言う前にわざとらしく口付けなんぞかましてきやがった。そう、まだ辺りに人がいるというのに。
「僕が待ちくたびれないうちに戻ることだね」
 見せつけるように煙草をくわえて、ろくに吸いもしないくせに、こいつは。すいと消えていく黒いスーツの後ろ姿を目で追って、視界から外れた途端にどっと疲労が押し寄せてきた。
 間違いなく、翌日どころか今日のうちに日本の方にも噂は届くだろう。先代ボス経由か、同盟ファミリーのボス経由か、あるいは両方か。なにせあいつは守護者の中で一二を争うほどの有名人な癖に公式の場を嫌うせいで軽く未知の生物のように物珍しげに見られている。それが同じ守護者でありボスの右腕でもある俺とどうこうなんて、推論も含み面白いネタとして持ち帰られるだろう。なにせこの場にいる連中は日本の部下たちとは違って幹部と行動することに慣れてはいない。
「あー…くそっ」
 仕事は完璧だった。事前に調べた見取り図や位置情報は正確で、戦力の配分、突入のタイミングも適正、予測した通りの場所に数量きっちりの積み荷を見つけ、回収作業もスムーズに行っている。守護者二人を動員せずとも押さえられただろうが、そのあたりは上の思惑との兼ね合いもある。とにかく顔見せとしての役目も果たして、あとは残存処理をこなしたら報告がてら帰国、でいいはずだったんだ。
 ただひとつのイレギュラーは、雲雀という存在だった。
 物寂しい唇を噛み締めて、仕事へと頭を切り替える。あとで文句のひとつぐらいは言ってやる隙があればいいが、まあきっとホテルに戻ったらそれどころじゃないだろうな。

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