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財団長の長い休暇1

「バカンス、ねぇ…」
 くぁ、と大きな口を開けて欠伸をする仕草は10年前と変わりなく、それを可愛らしいと思って見てしまう自分の方が変わったのだろうか。ベッドから出ようとしない相手を横目に携帯を閉じ、残してきた仕事と脳内のカレンダーを照らし合わせる。
「長くて一週間、帰国の便を考えても最低三日くらいは空けられるぜ」
 我がボスの家庭教師殿の命令はある意味ボスの命に等しい。帰ってこなくてもいい、ではなく帰ってくるなと言われたと解釈するべきだった。大方のところは、まだ未熟な若い守護者に溜まった書類を仕上げさせる試練のつもりだと推測できる。それ以外の意図は汲めはしないし邪推も必要ないだろう。
「てめぇはどうする、ヒバリ」
 同盟ファミリーの祝いの席への顔出しとしてボスの代わりに来た自分と共に渡航したのはボンゴレ最強の守護者と名高い雲雀恭弥だ。物腰の柔らかいボスや小狡い外交の得意な霧の守護者ではなく自分達を向かわせたということはファミリーの威厳を火力として見せたい思惑があってのことだと推察していたが、家庭教師殿は単にボスのサポート役の自分を離して厳しい教育を施したかったのかもしれない、と考えると帰国した時のボスの様子が心配になってくる。
 たっぷりと溜め息をついた後でもう一度ベッドの主を見れば、何故か視線がかち合う。
「なんだよ」
「別に」
 雲雀がふいと顔をそらした向こうには古くさい造りの窓がある。大分陽も高くなり始めたようで、路地にも光が入り込んできていた。
「てめぇもボンゴレからの仕事はねぇし、風紀も休みもらってんだろ? 朝飯食ったらちょっと出ようぜ」
 どこに、と考えているわけではない。ただ折角天気もいいし、イタリアの空気を味わいたかっただけだ。同意を得られるかは半々だと思っていたが、意外に簡単に雲雀はいいよ、と言った。昨日のワインが美味かったことが勝因だろうか、などと適当な理由をつけてしまえばあとは出掛けるばかりだ。
 休暇とはいえ自分も雲雀もスーツ以外に着るものなど用意してはこなかった。仕方なくベストだけ羽織って、雲雀はシャツのみに袖を通して街に出る。昼休みのサラリーマンみたいだな、と冗談を言っても相槌をもらえるわけでもないが、機嫌さえ損ねなければ何でも良かった。
 大通りから裏手に入ったところの賑わう店の片隅に席を取る。ピッツァとパスタは分けあっても余るくらいのボリュームで、けれど味にうるさいやつが文句をつけるわけでもなかったから、時間を掛ければ完食できた。
「なに」
 視線に気付いたか、コーヒーカップから目を上げた雲雀がこちらを見る。その目は深く落ち着いた色だったから、これは完全にオフモードだな、と思わず笑みがこぼれる。
「にやにやしないで」
「気にすんなよ」
 空いてる左手に手を伸ばして指先に触れても雲雀は気にしないし、誰も見ていない。
「たまにはゆっくりするのも悪くないだろ?」
 調子に乗るな、と言われたけれど雲雀からその手が離されることはなかった。

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