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互いに何故と理由を問うことはなかった。理由など無いと思考を突き放しながらも、何処かで必然だと下らないことを信じてもいた。
「ん、ぐ」
「……声、出してください。どうせこんなところ、誰も来たりしませんから」
諾々とした欲情に身を任せながら、骸はこれまでも何度となく綱吉の細い体を貫いた。それでも求める気持ちは尽きることすらなく、綱吉が自分に触れる度に点る熱を、その体にぶつけることでいなしていた。
口に螺子込まれた骸の形良い指に舌を這わせ、綱吉はどうしようもない背徳の快楽に溺れている自分を感じながらそれに身を任せた。けれど、何度言われても強要されても最後には声を喉の奥で砕くように飲み込んでしまう。それは綱吉自身も気付かない恐怖によるということを、骸もまた知らなかった。
「強情、ですね…っ」
「ひ、ぃ…ッ!」
奥深くに突き立てられたまま自身を握られ、細い少年の体はひどく脅えたように震える。それに構わず抱えた脚を強引に開かせれば、繋がった秘所が曝け出されてしまう。
「ここに足を運ぶのは、僕とこうしたいからでしょう?ならば、何故声を出さないのですか。僕の望むようにすれば、幾らでも貴方の好きにして差し上げますよ…!」
「や、やだ、…ッ!」
骸の手の内で、濡れた卑猥な音が生まれ、綱吉を耳殻からも犯していく。
「十代目当主が色狂いだと知られたら、どうなるでしょうね?」
咄嗟に両手で塞がれた耳の側で骸が独特な含み笑いを洩らすと、綱吉が最悪の事態を思い浮かべたか、顔色を変える。
家を継ぐことに躊躇いと不安はあったが、それで得ることができるのならば構わないと思っていた。けれど、その立場を狙う者など見渡せば幾らでもいるであろうことは、誰よりも綱吉が身を持って感じていた。
「駄目、だ…ッ!」
胸元や首筋に花弁のような色を散らしていく唇から逃れようと綱吉は必死に藻掻いた。体に埋め込まれた楔の圧迫感も、肌の上を骸の唇が触れていくのも構わない、むしろ喜んで受け入れているというのに、今だけはこの男を奪われるかもしれないという恐怖が綱吉の精神を脅かしていた。
「何が嫌なんですか。毎夜虜囚の元に通い、その体を汚されて、まだ怖いものがあるとでも?」
捕えられた手首に骸の舌が這わされる。濡れ光る紅いそれの色香に綱吉は背筋を這上がるものを感じ、視線を外せずにいた。
「あ…」
ゆるく握った手指の、小さな爪に唇が触れるだけで火が点ったように熱くなる。指先すらじんじんと痺れるように感じるのに、骸の触れていった感覚だけは鋭く残り、温度は消えなかった。
「むくろ」
綱吉は手段を他に持たず、ただ繰り返し名を呼ぶことしかしなかった。それが最も効果的に相手の神経を苛むとも知らず、震える声を絞りだし、喘ぎ混じりに呼び続ける。
「卑怯、ですね貴方は…っ」
苛立ちに、骸の瞳の緋色が揺らぐ。決して手の届かないはずのものを今だけ捉えていると知っているからこその怒りを、目の前の人は理解などできはしない。しかし、それを理解されることを望まないのもまた事実で、綱吉の理性のあるうちに罵ることなど今までには一度たりともなかった。
「おれ、が」
驚愕に見開かれる綱吉の瞳。骸は自らの失態に気付いた。
それまでどんなことをしても生理的な涙以外溢さなかった綱吉が泣きそうに顔を歪めるのを見て初めて、骸の心に罪悪感が芽生えた。自らを犠牲にして自分などを守ろうとするこの小さな子供に罪などあろうかと、溢れる雫を拭ってやりながら呆然と見つめている。
「ごめん、骸」
自らの力ではなく、就く地位と支配力によって骸を自分の手元に置くのを平穏な日常との代償だと思って納得しようとしていた。それが私欲に走る自分への言い訳でしかないと気付いていた綱吉にとって、骸に責められるということは最も恐れていたことだった。
「骸、ごめん、むくろ…」
「――ッ」
顔を覆う手を払い、骸は衝動のまま綱吉の唇を塞いだ。自分で誘っておきながら、何も知らない体に欲を覚えさせておきながら責める権利があるわけはない。それでも人を疑うことを知らない少年は言葉の通りに自らのせいだと思い込む。
なんて、愚かな。
「貴方は、悪くはない」
「ぁ…ッ!」
「悪くないんです、沢田綱吉」
苛立ちは、自分へと向けられ、代わりに細い足を抱え上げ奥を貫く。突然に再開された行為に綱吉が戸惑っている間に耳元へと言葉を吹き込む。
「綱吉、僕が望んだことです」
耳に舌を這わせ、耳殻に唇を触れたまま囁かれ綱吉の肩が震える。幼さを残す体は快楽に耐えきれずすぐに理性を失ってしまう。そうするように骸は仕向けたのだ。
「んぁ、は…むく、ろ…っ」
ぐしゃぐしゃに乱れた着物の上に横たえられた細い肢体を揺すり上げ、繋がった深い箇所を犯す。触れてもいない自身からの蜜が腹部を濡らすのを見て、骸は笑んだ。
「ねぇ、綱吉。僕のものになりなさい」
「むくろ、の…?」
「そうです、僕のものに、してあげますよ」
握り込んだそれを擦れば、狭い空間に卑猥な濡れた音が満ちる。達しそうになる度に強く握り押し止めると、過ぎた快楽と苦痛とに狂わされたように首を振った。
「ぃや、あ、出させ、て…ッ」
「頷けば、楽になります」
先端をぐりぐりと刺激され、綱吉は無意識に体に埋められた骸を締め付け、余計に苦しさに喘いだ。ただ、目の前に差し出された甘美な誘惑から逃れることもできず、がくがくと首を縦に振る。
「っ…なる、なるからぁ!」
「良い子、ですね」
限界まで追い詰めて解放してやるだけで、未熟な体は従順になる。その細い肢体に何度も教え込んだ暗い愉悦に綱吉が完全に浸る前に、再び激しい律動を始めた。
「んぁ、あ、あぁっ」
身を襲うあまりの衝撃に、綱吉は骸の体にしがみつき声を上げた。骸に与えられた言葉が少なからず自我を崩し、与えられるままに声を上げることへの躊躇いが薄れていく。
「出します、よ…」
綱吉の腕に引かれるままに体を擦り寄せ、唇を合わせ囁く。
「ん…、むくろ…っ」
喉を仰のかせ息も絶え絶えに、それでも綱吉は求めるように頷いた。元より得られるはずのない邂逅を経て夜を重ね、自我を表すことで失うことを恐れていた自分に、それでも骸が触れているという事実が奇跡のように思えて、溢れるものを堪えきることができなかった。
無意識に頬を濡らしていた雫を何より愛しい男に舐め取られる感触に、また囚われているような錯覚を得ながら綱吉は理性と共に意識を手放していた。
暗く塞がれた牢の中に、鎖が耳障りな音を響かせる。
「綱吉」
愛しい者の名を呼んで、骸は誰にも見せたことのないような優しげな表情を浮かべていた。
腕の中の少年が目覚めるにはまだ早い。着物の裾から覗く細い足首に引き寄せた鎖の先の金具を合わせ、少し力を込めれば噛み合わされる。形だけの拘束でも骸の胸には深い安堵が宿り、狂気を宿した瞳にはそれが永遠のように写った。
「これで、僕のものですよ」
紅い痣の浮かぶ首筋。手を掛ければ容易く指がまわる。
「ほら、早く起きないと、殺してしまいますよ」
唇を触れ合わせながら、愛の言葉のように死を囁いて。
捕えられたのは誰か、捕える者は誰か。この狭い牢の中には答えを知る者などいるはずもなく、仮初めの楽園は蝋の火が尽きるまでの間ばかりの儚いものと知る彼らの手で幕を降ろされるのを待っていた。
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